1.自己免疫性感音性難聴は、蝸牛の異常に起因するのではなく、血液骨髄系細胞の異常に起因することを明らかにした。 a)蝸牛の血管条への自己抗体沈着により自己免疫性感音性難聴を示すMRL/lpr(lpr)マウスと、蝸牛病変や難聴は示さないが先天性免疫不全により移植片を拒絶できないSCIDマウスを用いて実験を行い、以下の結果を得た。 1)lprマウスのリンパ球(脾細胞)を注入され20週を経たSCIDマウスにおいて、フローサイトメトリーにより、リンパ球がlprマウスのリンパ球に置き換わることが判明した。 2)このマウスでは、聴力検査(聴性脳幹反応)で感音性難聴が見られ、また、免疫組織化学的に血管条への自己抗体(IgG)沈着が認められ、lprマウスと同様な病態を示すことが明らかとなった。 以上より、自己免疫性感音性難聴のマウスのリンパ球を注入することで、元来は聴力や蝸牛の正常なマウスに感音性難聴や蝸牛病変が移入できると考えられた。 b)リンパ球は骨髄細胞から分化してくることから、次にlprマウスのリンパ球でなく骨髄細胞をSCIDマウスに注入(骨髄移植)したところ、SCIDマウスにlprマウスと同様の感音性難聴と蝸牛病変が生じることを観察した。したがって、自己免疫性感音性難聴が、リンパ球やその元である骨髄細胞の異常に起因すると考えられた。 2.内耳の免疫機構のうちI型アレルギーを検索した。そして、モルモット前庭有毛細胞にヒスタミンのH1、H2、H3レセプターが存在すること、内リンパ曩に分布する肥満細胞から放出されたヒスタミンは、これらのレセプターを介して刺激を受け、細胞内外のカルシウムを動員して、前庭有毛細胞内のカルシウム濃度を上昇させることが明らかとなった。 3.陽荷電物質であるpolyethyl eneimine(PEI)をトレーサーとして、半規管膨大部暗細胞領域の上皮と毛細血管の基底膜における荷電関門(charge barrier)を、モルモットを用いて電子顕微鏡下に観察した。そして、PEI粒子の付着部位は正常状態では基底膜に沿って2列に配列すること、内リンパ水腫と関係するフロセミド等の投与によって減少することが判明し、内リンパ液の産生と吸収に関与するとされる荷電関門の機能をPEIを用いて観察できることが明らかとなった。
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