昨年度作成した検査システムを用いて、聴覚障害者を対象にデジタル信号処理音声が語音弁別にとって有用かどうかを検討した。 1)対象と方法 14歳から78歳までの感音難聴者36名を対象とした。まず、それぞれの難聴者の聴力閾値、快適閾値、不快閾値を測定した。ついで、このデータに基づきそれぞれの難聴者に対するデジタル信号処理の条件を設定した。信号処理の条件としてlinear amplification(LAと略す)と2種類のamplitude compressionを採用した。1つは健常児のダイナミックレンジを個々の難聴耳のダイナミックレンジに圧縮投影するように信号処理をする方法(NCと呼ぶ)で、もう1つは音声のダイナミックレンジを個々の難聴耳のダイナミックレンジに圧縮投影する方法(PCと呼ぶ)である。いづれも3チャンネルとし、昨年報告した検査システムを用い、難聴者の時間分解能を考慮するとどの信号処理が語音弁別に優れているかを検討した。 2)結果と考察 個々の難聴者にとって、どの信号処理が優れているかを通常の語音聴力検査で判断できない場合でも、本システムによって最もすぐれた信号処理法を決定することが可能な場合があり、本システムの有用性が示された。本システムによって得られたデータから、全体的に見るとlinear amplificationよりamplitude compressionの方が優れていることが、示された。NCとPCでは有意な差は認められなかった。語音聴力検査に時間的要因を取り入れることにより、語音を用いた補聴器の評価が多面的になり、補聴器評価における本検査の有用性が認められた。
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