音声治療の適応基準を作成するための第一段階として、本研究では、反回神経麻痺患者15名に喉頭内視鏡下に、音声治療の一つであるpushing method(以下、PM)を行い、その効果及び喉頭にみられる変化を検討した。内訳はPM有効例6例(男1、女5)、無効例9例(男8、女1)である。検討項目は以下の6項目:(1)仮声帯の内転の有無、(2)前交連・被裂部距離の短縮の有無、(3)声帯の延長・短縮の有無、(4)両声帯突起間距離の短縮の有無、(5)喉頭蓋の倒れこみの有無、(6)被裂間部の位置。PMにより音声が悪化する時は、健側声帯の内転、健側前交連被裂間距離の短縮、喉頭蓋の倒れこみ等、過剰な喉頭閉鎖がPMにより生じていた。一方、音声が良くなる時は声帯の延長、軸のずれ等がみられた。以上より、PM前後の喉頭内視鏡所見の変化は、以下の5型に分類できることがわかった。1型:喉頭前後径の延長(声帯の伸展)が見られるもの、2型:喉頭前後径の短縮(声帯幅の広がり)が見られるもの、3型:健側声帯の代償が見られるもの、4型:声帯は変化なく声帯以外の喉頭形態の変化が見られるもの、5型:声帯を含め、喉頭の形態変化が見られないもの。1-3型では声帯間隙の狭小化がみられ、音声の改善がある。4、5型では音声の改善がない。各型に於いてPMに関与する喉頭筋が異なることが予想された。 次に反回神経麻痺患者13名に声帯筋(甲状被裂筋)の筋電図を、安静時と発声時、PMの有無で施行、比較検討した。内訳は、PM有効例4例(男性2名、女性2名)、PMの無効例9例(男性9名)である。有効例では全例に健側及び患側声帯でPMにより安静時、発声時に発火の増加をみた。この発火の増加は主に振幅の変化であった。無効例ではほぼ全例に於いて安静時、発声時におけるPMの筋電図におよぼす変化はないか、あってもごく僅かであった。
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