後部硝子体剥離には網膜の血管新生を抑制する効果があると臨床的に推測されている。そこで本研究では、人工的に後部硝子体を剥離させるモデルの作成と隣接組織に対する影響について検討した。実験群として、ラミニンとフィブロネクチンを分解し網膜と硝子体間の接着力を低下させる効果が報告されているプラスミン(1ユニット)を成熟家兎の硝子体内に注入した群、プラスミンを注入してから1時間後に膨張性ガスであるフッ化硫黄(SF6)を0.4ml硝子体内に注入した群、フッ化硫黄ガスのみを硝子体内に注入した群の3群を用意した。また、硝子体内に生理食塩水を注入した群を対照とした。経時的に実験動物の前房、水晶体、硝子体および網膜の変化を+90Dの前置レンズと細隙灯顕微鏡、および双眼倒像鏡をもちいて観察したところ、硝子体内に注入したフッ化硫黄ガスは約1週間で完全に消失したが、いずれの群でも本方法では後部硝子体剥離を確認することができなかった。そこで、硝子体注入より10日後に眼球を摘出し、ホルマリン固定後にヘマトキシリン・エオジン染色し、光学顕微鏡で観察した。その結果、プラスミンとフッ化硫黄ガスの両者を注入した実験群では広い範囲で後部硝子体剥離が認められた。また、プラスミンのみを注入した群でも部分的に後部硝子体剥離がみられた。この両群では硝子体内に炎症細胞が観察されたが、網膜には変化がみられなかった。一方、フッ化硫黄ガスのみを硝子体内に注入した群では硝子体の分離はみられたが、硝子体は網膜に接着していた。 以上の結果より、プラスミンとフッ化硫黄ガスを硝子体内に注入することにより組織学的な後部硝子体剥離を作成できることが明らかとなった。今後は、より完全な後部硝子体剥離を作成する方法について検討するとともに、血管新生を抑制する効果についても検討していきたい。
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