プロスタグランディン合成における律速段階であるプロスタグランディンH合成酵素(PGHS)のアイソザイム(PGHS-1、-2)が眼内炎症時に果たす役割について、in vitroおよびin vivoの実験系を用いて検討した。1)in vitroの系として、ウシ眼球の毛様体上皮細胞、角膜内皮細胞および水晶体上皮細胞の培養系を用いた。PGHS活性の測定には、i)培養上清中のPGE_2をELISAで測定、ii)抗PGHS抗体を用いた免疫組織化学染色、iii)ノーザンブロットハイブリダイゼイション、を用いた。その結果、どの細胞においても休止状態の細胞にはPGHS-1および-2の発現がほとんどみられなかった。休止状態の細胞をインターロイキン1βまたはリポポリサッカライド(LPS)で3時間以上刺激すると、角膜内皮細胞においてPGHS-2の発現が顕著に上昇したが、毛様体上皮細胞と水晶体上皮細胞ではPGHSの発現はみられなかった。角膜内皮細胞におけるPGHS-2の発現は特異的阻害剤であるNS-398により完全に抑制された。2)in vivoの系として、LPSの家兎硝子体注射によるエンドトキシン誘発ぶどう膜炎モデルを用いた。LPS注射後9時間で眼球を摘出し、厚さ7μmの凍結切片を作成し抗PGHS抗体を用いた免疫組織化学染色により検討した結果、眼内では角膜内皮細胞においてPGHS-2の発現が認められたが、他の部位ではPGHSの発現はほとんどみられず、in vitroの結果と一致した。以上のことより、従来の眼内におけるプロスタグランディン産生の場は主に虹彩毛様体であるという見解に反し、眼内炎症時に角膜内皮細胞がプロスタグランディン産生を担っている可能性が示唆され、今後の抗炎症薬の開発や投与方法に新たな展開が期待される。
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