角膜創傷治癒過程におけるコラーゲン代謝とその制御機構について検討した。角膜創傷治癒過程においてコラーゲンは二峰性に産生の増加がみられるが、その産生は主に転写レベルで制御されることが明らかとなった。このコラーゲン産生に関与する因子について検討したところ、epidermal growth factor(EGF)、interleukin-1はコラーゲン産生を促進することが明らかとなった。その促進作用が遺伝子転写レベルにおける作用か否かについて検討したが、再現性のあるデータが得られなかった。一方、コラーゲン分解活性については、創傷治癒過程初期には緩慢な、中期から後期のコラーゲン再構築の時期には急速な分解が行なわれるが、初期の分解には主として好中球をはじめとする炎症細胞が、その後の分解には実質細胞の産生するコラゲナーゼと実質細胞の貪食作用とが関与することが明らかとなった。EGF、interleukin-1はいずれも実質細胞のコラーゲン分解活性を促進するが、EGFでは少なくともその作用の一部はコラゲナーゼ合成遺伝子の転写レベルにおいてであることが示唆された。コラーゲン以外の細胞外マトリックスであるグリコサミノグリカンについてはEGFは実質細胞における産生を促進することが判明した。角膜実質創傷治癒過程における実質細胞の増殖をEGF、ヒアルロン酸は促進し、ステロイドは抑制することが明らかとなったが、新たにトラニラストが角膜創傷治癒過程における実質細胞の増殖ならびにコラーゲン産生を抑制することが明らかとなった。手術や外傷による角膜穿孔創の早期の閉鎖のためには実質創傷治癒を促進することが必要であるが、エキシマレーザー角膜屈折矯正手術の合併症である上皮下混濁の制御のためには、むしろ実質創傷治癒の抑制が必要とされている。臨床における問題点の解明のためにはさらなる検討が必要であるが、本研究の成果は極めて有用であると考えられる。
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