角膜上皮はその透明性を維持するために、絶えず分裂しながら分化を続けている。こうした角膜上皮の分化過程を明らかにするために、角化制御酵素の一つであるトランスグルタミテ-ゼ(TG)に注目し、患者より得られた角膜上皮と結膜から総RNAを抽出し、Reverse Transcription-Polymerase Chain Reaction(PT-PCR)法によって解析したところ、角膜および結膜のいずれにおいても本酵素の遺伝子発現が証明された。さらにTGの基質の一つであるコ-ニフィンの局在を免疫組織学的に検討したところ、結膜上皮の基底層と角膜上皮に局在をみた。次に分化異常の実験モデルとしてビタミンA欠乏ラットを用い、角結膜におけるTGの動態について検討した。欠乏食投与9週後から点状表層角膜症などのドライアイ様の所見を呈し、12週後には角膜上の分泌物や糸状角膜炎が増加、投与18週後には角膜軟化症に類似の角膜混濁が生じた。組織学的検索では、角結膜上皮の角化亢進とともに結膜杯細胞が減少しており、角結膜上皮の分化異常が証明された。角結膜上皮の分化異常とTGとの関連をみるために、角膜より総RNAを抽出して半定量的RT-PCRを行ったところ、欠乏期間が長くなるほどI型の遺伝子発現量は増加し、II型のそれは減少傾向を示した。また、特異プライマーで増幅してグルタチオン-S-トランスフェラーゼに融合、大腸菌に発現させたI型TGの組み換え蛋白質を白色家兎に免疫し、ポリクロナール抗体を作製した。TGの局在を免疫組織化学的に検討したところ、ヒトおよびラットともに、角膜では細胞膜を主体に全層にわたって、ヒト結膜でも上皮表層と基底層に強い染色性が見られた。以上の結果は、角結膜上皮の分化異常、すなわち角化現象にTGが関与していることを示している。角結膜上皮の分化をコントロールする点眼薬の開発に向けて、今後TGの発現に影響する因子を追求していくことが大きな突破口となるはずである。
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