視神経近傍の循環に影響があると思われる毛様動脈の生理学的性質について研究を行った。白色家兎より毛様動脈を摘出し、その電気生理学的性質を等尺性収縮記録法を用いてin vitroで検討するとともに様々な緑内障治療薬の影響もあわせて検討した。神経刺激によってこの血管は弱い収縮活動を発生した。この収縮はブナゾシンによって抑制されたので、α受容体を介した交感神経による反応と考えられた。イソプロテレノールはこの血管を高K溶液で収縮させた状態でもほとんど反応を示さず、β受容体はほとんど存在しないと思われた。また、ヒスタミンはこの血管を強く収縮させたが、このように収縮させた状態で神経刺激を加えると著明な弛緩反応が発生した。この弛緩反応は血管内皮を機械的に除去しても見られたが、NO合成阻害剤であるN-ニトロ‐L‐アルギニンメチルエステルによって抑制された。ピロカルピンは1mMという高濃度までまったく収縮を起こさなかった。高K溶液で収縮させた状態でこの薬剤を投与してみると、1μMから弛緩が発生した。この弛緩もNO合成阻害剤で抑制された。チモロール、ベタキソロールは両者とも1mMという高濃度までほとんど収縮をおこさなかったが、カルテオロールは濃度依存性の収縮を示した。高K溶液での収縮下でこれらの薬剤を投与すると、ベタキソロールは100μMから、チモロールでは1mMから弛緩が見られたが、カルテオロールでは弛緩は見られなかった。以上の結果より白色家兎毛様動脈は交感神経による収縮と非コリン非アドレナリンNO線維による弛緩という二重神経支配を受けていると思われた。また、ピロカルピンは内皮依存性のNO放出によってこの血管を弛緩させ、血流改善作用があることが予想された。また、チモロール、ベタキソロール高濃度で白色家兎後毛様動脈を弛緩させる作用があることがわかった。この弛緩にはβ受容体も、NOも関与していないことから弛緩の機序としてカルシウムチャネル阻害作用などが考えられ、少なくとも高濃度では若干の血流改善作用があることが予想された。しかしカルテオロールはこの2剤とは違い弛緩は見られず、NO活性作用も明らかにはならなかった。
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