老人性白内障の成因として、水晶体に対する自己抗体が水晶体上皮細胞を障害するのではないかという自己免疫機構の関与を解明するために、水晶体の特異蛋白であるベータ-・クリスタリンに対する抗体が培養ヒト水晶体上皮細胞に及ぼす影響について検討した。まず、マウスを用いて作成されたベータ-・クリスタリン抗体が培養ヒト水晶体上皮細胞に与える細胞障害を検討し、さらに補体が関与している可能性を調べた結果、水晶体上皮細胞は補体の存在下でのみベータ-・クリスタリン抗体によって約30%が細胞死をきたした。次に、水晶体上皮細胞の水晶体線維細胞への形質転換に及ぼすベータ-・クリスタリン抗体の影響を検討した。線維細胞への形質転換を促進させるために蛋白非付着膜上で水晶体上皮細胞を培養する方法を用いたところ、ベータ-・クリスタリン抗体に暴露された水晶体上皮細胞は線維細胞に形質転換しないことが、透過型電子顕微鏡による形態学的観察と、水晶体線維細胞の細胞指標であるガンマ・クリスタリン産生についての免疫電子顕微鏡による観察で明らかとなった。最後に、免疫電子顕微鏡による観察でベータ-・クリスタリン抗体が培養ヒト水晶体上皮細胞の細胞表面に結合することの確証を得ることができた。本研究により、ベータ-・クリスタリンに対する抗体が補体の存在下にヒト水晶体上皮細胞に結合し障害を与え、線維細胞への形質転換をも阻止することが証明され、水晶体に対する自己免疫機構が老人性白内障の原因の一つである可能性が一層高くなった。
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