平成8年度には、外眼筋の相反神経支配の状態と融像の異常から後天性外眼筋麻痺の視能矯正プログラムを考案した。平成9年度には、このプログラムを眼窩吹き抜け骨折、滑車神経麻痺、動眼神経麻痺、外転神経麻痺、甲状腺眼症の後天性眼球運動障害に適用して、視能訓練効果からプログラムの適応を検証した。外眼筋の相反神経支配の診断には、筋電図による分析が最適であるが全症例に測定はできない。したがって眼球位置覚検査と定位の誤認から相反神経支配の状態を判断した。また、ヘス赤緑試験で麻痺筋と直接拮抗筋、間接拮抗筋を鑑別し、渦動や不全をズレ量で判定した。融像の異常は、シノプトファやBagolini線条レンズテストを使用して、融像欠損、融像衰弱、部分融像、潜伏融像、融像こわがり、異常融像の状態に分類した。眼窩吹き抜け骨折は、垂直方向で強い外眼筋の運動抵抗や制限があり、部分融像を認めるものが7割を占めた。視能訓練は、片眼の衝動性眼球運動訓練、輻湊訓練、最終的にはFusion Lock Trainingで30°以上の良好な融像野が獲得できた。滑車神経麻痺では、麻痺筋(上斜筋)と拮抗筋(下斜筋)の作用方向のズレから3タイプに分類した。両者のズレが等しい場合は、Fusion Lock Trainingが最も奏効することが確認できた。動眼神経麻痺は、完全麻痺と不全麻痺の状態がある。視能矯正プログラムの適用は、外眼筋の相反神経支配と融像の異常の両者が考えられた。外転神経麻痺では、外眼筋の相反神経支配の異常を伴わないものがあり、良くFusion Lock Trainingに反応した。甲状腺眼症は、障害筋が単筋であるか、複数筋であるかにより視能矯正プログラムを選択した。眼窩吹き抜け骨折や滑車神経麻痺は、第一眼位で垂直偏位が大きいため両中心窩での感覚性融像が容易に破れる。したがってFusion Lock Trainingの前は第一眼位での融像安定化訓練、輻湊訓練は必須項目であることが分かった。この研究内容は、第38回日本視能矯正学会で特別講演をした。
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