研究概要 |
黄斑部網膜上に増殖膜が形成されると,視力障害の原因となる。特発性黄斑部網膜上膜の形成主体はニュラー細胞である。この網膜上膜形成にかかわるミュラー細胞の反応を観察するための実験を行った。方法:家兎耳静脈より採取した自家全血液0.3mlを硝子体腔中央へ注入し,注入翌日から1か月後まで経時的に眼球を摘出した。摘出眼球は10%ホルマリンに浸した後,48時間以内にパラフィンに包埋した。厚さ3μmの切片を作成して免疫染色を行った。免疫染色は,ABC法の変法であるLabelled Strept-Avidin Biotin法を用いた。ミュラー細胞の活性化の指標としてglial fibrally acidis protein(GFAP)を,細胞が増殖期にあるかどうかの判定にproliferating cell nuclear antigen(PCNA)を使用した。結果:血液注入3日後にはGFAP陽性所見が網膜内層で観察された。この時期,網膜内層にPCNA陽性の多数の細胞が観察されたが,この細胞は電子顕微鏡的にミュラー細胞であることが確認できた。注入された赤血球は注入7日頃に網膜表面に到達した。GFAP陽性所見は注入7日後には網膜内層から網膜外層まで観察された。PCNA陽性所見は血液注入7日後までがみられたが,10日後,14日後には陽性所見は観察されなかった。網膜上膜は血液注入14日後に形成され,GFAP陽性所見を呈した。以後,実験期間中を通してGFAP陽性所見は網膜と網膜上膜で観察された。結論:硝子体中への血液注入により,早期にミュラー細胞が活性化され,増殖期に入ることが明らかとなった。血液注入による硝子体環境の変化によりミュラー細胞は活性化を持続して増殖し,赤血球が網膜表面に到達後,ミュラー細胞が網膜上へ伸展して網膜上膜は形成されると考えられた。
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