研究概要 |
従来の局所冷却・Cold GIK液による心筋保護法を用いた場合、開心術後急性期のエコー評価による心機能(Fractional Shortening,Stress-Velocity Index)を新生児と乳児で比較すると、乳児群では大動脈遮断時間との間に相関を認めなかったが、新生児群では大動脈遮断時間と有意な負の相関を示した。すなわち、新生児の開心術後急性期の心機能は大動脈遮断時間の影響を強く受け、現在の心筋保護法は新生児には効果が不充分であることが示唆された。我々は、基礎研究として家兎新生仔摘出心Langendorf血液灌流モデルを用い、20℃3時間虚血・再灌流復温後の心機能(DP:左室発生圧、dp/dt)の回復度(%)を以下の群で比較した。1.再灌流条件の比較(心筋保護液はSt.Thomas(ST)液):K群:Krebs-Henseleit(K)液で再灌流、B群:気泡酸素化により活性化した同種全血で再灌流、W群:白血球除去同種血液で再灌流、S群:全血球成分除去後の同種血清で再灌流、H群:free hemoglobin(Hb+K液で再灌流、HP群:free Hb+Haptoglobin+K液で再灌流、C群:Carnitine+同種血液で再灌流。2.心筋保護液組成の比較(灌流液は同種全血):GIK群:GIK液、ST群:ST液、AD群:Adenosine+ST液:H-7.4群:L-Histidine+ST液(pH=7.4)、H-6.8群:L-Histidine+ST液(pH=6.8)、H-6.2群:L-Histidine+ST液(pH=6.2)、A-H群:新しく考案した心筋保護液NaCl25mM/L、NaHCO_3 30mM/L、KCl 10mM/L、MgCl_2 1.6mM/L、CaCl_2 0.5mM/L、Glucose 10g/L、Adenosine 5mM/L、Histidine 160mM/L、Histidine-HCl 20mM/L、pH=7.0。結果を表に示す。平均±標準誤差。 群 maxDP maxdP/dt 群 maxDP maxdP/dt 群 maxDP maxdP/dt 群 maxDP maxdP/dt K 103±6 105±6 H 61±8 54±8 GIK 79±9 81±9 H-7.4 77±5 70±4 B 82±7 79±26 HP 101±5 91±9 ST 83±9 84±7 H-6.8 110±13 97±11 W 115±10 115±10 C 103±4 106±5 AD 99±4 107±7 H-6.2 62±20 56±18 S 95±6 100±7 A-H 89±10 87±6 白血球、血漿成分、溶血によるfree Hb等の血液成分が関与した再灌流障害の防止が未熟心筋の保護に重要である。臨床上我々は体外循環中・虚血後の血液成分活性化による有害物質除去を目的に血液の洗浄濾過を行い、新生児で術後急性期心機能の有意な改善を認めた。心筋保護組成としては、アデノシンのAl作用とヒスチジンによる細胞内アシドーシス軽減によるCaイオン流入抑制の効果が期待できる。アデノシン、ヒスチジン共に生体由来の物質であり副作用の危険も少なく、新しく考案した心筋保護液(A-H液)は臨床使用可能と思われた。
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