ヒトの唾液中に含まれる免疫抗体や酵素などは、歯肉炎や歯周炎などの口腔内の諸疾患の発症を防止していることは良く知られている。我々は、唾液中に含まれれている35kDaの分子量をもつ蛋白は歯周病の発症の防止に関連しているものと推察してきた。そこで、22歳から75歳までの患者や研究員146名から、それぞれ了解のもとに全唾液を採取し12.5%のアクリルアミド・ゲルを用いた電気泳動法を用いて分析した。分析にあたり、ゲルを0.25%クマシーブリリアントブルー(CBB)で30分染色を施した後、デンシトメータで測定した。 146名からの唾液試料を分析した結果、42の試料からCBBに染色される35kDaバンドが認められ。一方、104名の唾液試料からは35kDa蛋白のバンドは観察されなかった。また、長期に亘って口腔内の衛生状態を継続管理した患者の中で体質的に歯周病を患っている者25名のうち、35kDaバンドが認められた者はわずかに1例であった。これにたいし、健常と診断された36名のうち35kDaバンドは34名に認められた。この結果は、唾液中に含まれる35kDa蛋白は歯周病の発症と進行に深く関与していることを示唆している。この蛋白の生化学的特性や生理学的機能については今後さらに検索の必要がある。また、もしこの蛋白が唾液腺腺細胞において合成され唾液中に分泌されるとしたら、当然遺伝子が関与することになるので、歯周病に対する今後の予防歯科学においても重要な意味をもつことになる。
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