本研究はラット顎下腺を用い、外分泌細胞の分化発達過程における内分泌学的変化について検索し、以下の結果を得た。 1. 幼若期ラット顎下腺終末部はterminal tubule cell(TT-cell)とacinar cell(AC)、proacinar cell(PAC)の3種類の細胞よりなりTT-cellがもっとも多く認められた。離乳期以降の顎下腺ではACのみより構成されていた。PACは2週齢頃にすべてACに移行し、TT-cellは空胞形成に伴う顆粒の消失と、apoptosisによってその細胞数を減少させるのが観察された。さらに雌の顎下腺ではTT-cellが一部残存し、介在部を構成することが示唆された。 2. estrogen receptor(ER)cDNAを用いたin situ hybridization(ISH)ならびにERの抗体を用いた免疫組織化学的検索の結果、幼若期ではERがTT-cellに存在することが認められた。離乳期以降の顎下腺におけるISHは陰性であったが、雌の介在部の一部に陽性所見を認めた。すなわち幼若期においては顎下腺におけるエストロゲンの標的部位はTT-cellであることが示された。 3. ラット顎下腺より全RNAを抽出し、RT-PCR法によりERを定量的に検索した。その結果、幼若期におけるERは成体のものに比べ著しく多量に認められた。さらに幼若顎下腺でその含有量に性差が認められ、雌の方が雄に比べてその含有量は優位に多かった。 4. estrogenの作用を検索するため、その阻害剤であるtamoxyfenを幼若ラットに投与し、顎下腺の形態学的変化を検索した。その結果、腺房部には変化は認められなかったが、TT-cellの顆粒に著しい減少を認めた。これはtamoxyfenにより顆粒合成が阻害されたことを示すものであり、estrogenは幼若顎下腺TT-cellの顆粒合成に関与していることが推察された。
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