代表者等は数年来ラット切歯エナメル芽細胞のアポトーシスの研究を進めてきた。この結果、基質形成期と成熟期の間のわずかな移行期で確かにエナメル芽細胞のアポトーシスが起きていて、アポトーシスにより生じた細胞断片は周囲のエナメル芽細胞自身、乳頭層細胞、およびこの時期エナメル器に侵入してくるマクロファージ様の細胞により貪食処理されることがわかった。このマクロファージ様細胞は同時に主要組織適合性抗原クラスIIをその形質膜に発現していて、したがってアポトーシスにより生じた細胞断片由来の自己抗原が提示されている可能性が示唆された。またアポトーシスに際して核内DNAの再配置と共にsnRNAとRNA関連タンパク質の再配置も起きていることが明らかとなった。エナメル基質を合成分泌する基質形成期エナメル芽細胞とその石灰化度を上昇させ有機基質を脱却するのに役割を果たしている成熟期エナメル芽細胞とではその要求される細胞数が異なっていると考えられる。その細胞数調節のために移行期エナメル芽細胞でアポトーシスが生じていると想像される。このような現象は歯牙の発生過程で広範に起きている可能性がある。また、なにが特定のエナメル芽細胞に死を指令し、隣り合った別の細胞には生存を許容するのか。このようなメカニズムについては全く知られていない。今後、どれだけ広範な歯牙形成の場で、どのような機構によりアポトーシスが生じているかについて検討を進める必要があろう。
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