研究概要 |
顎運動に関しては歯科の研究対象として機能的,形態的両面から各種研究がなされているが,中枢神経とりわけ精神機能ならびに情動行動の面からとらえる研究は進んでいないのが現状である。しかし,口腔癖や歯ぎしりの発生に精神的,情緒的な要素が重要な役割を演じていることは認められており,顎関節症の患者の中で,精神安定剤の内服が症状軽減に有効な手段であることも報告されている.また,精神病治療薬(ハロペリドールなど)での治療中に,orofacial dyskineiaが起こることはよく知られている.これは錐体外路系のドパミンとアセチルコリン系のバランスの異常が原因とされていた.しかし,ヒスタミン神経系に関する報告はない.これらの背景から,本研究では覚醒剤methamphetamine (MAP)投与により誘発されるoral stereotypyの顎運動に絞り,その発現メカニズムにおけるヒスタミン神経系の投与を明らかにすることを目的とした.今回は脳内とりわけ線条体において顎運動時のヒスタミンの動態を捕らえ,この変化が顎運動にどのような影響を与えているか検討した.1. MAP投与により誘発される顎運動時における脳内ヒスタミン量の変動についてマイクロダイアリシス法および高速液体クロマトグラフィーを用いて分離定量した結果,1. ヒスタミンの細胞外遊離量は増加した.2.また,ヒスタミン合成酵素のヒスチジン脱炭酸酵素の活性は上昇し,ヒスタミン神経系の活性はMAP投与に活性化されることが判明した.3.しかし,この遊離はドパミンの遊離よりも遅れて現れ,さらにハロペリドール(D2受容体拮抗薬)前処理により抑制されることを認めた.現在oral stereotypy (licking, biting)との相関性についてまとめている段階であるが,脳内ドバミンは促進系,ヒスタミン系は抑制系として関与していることが示唆されると思われる.
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