本研究は、軟骨原基形成の初期の過程、すなわち、chondrogenesisにおけるβ1インテグリンの役割を明らかにすることを目的として行われ、つぎのような成果が得られた。 1)肢芽組織を用いて、β1インテグリン・グループの発現を検索したところ、軟骨形成部位においてはβ1、α1、α3、α5およびαvインテグリンサブユニットが発現していたが、その発現レベルは軟骨の発生にともない著明な変化はしなかった。 2)肢芽細胞培養系を用いて、β1インテグリンを介する細胞外基質シグナルの遮断は軟骨形成を促進することを明らかにした。 3)肢芽細胞培養系を用いて、フィブロネクチン基質のシグナルの遮断は軟骨形成を促進することを明らかにした。 4)β1インテグリンを介する細胞外基質の遮断による軟骨形成の促進は細胞凝集の促進に起因することを明らかにした。 上記の結果より、軟骨組織の発生過程において、β1インテグリンを介するフィブロネクチンのシグナルが軟骨形成を制御していることが示唆された。すなわち、β1インテグリンを介するフィブロネクチンのシグナルは未分化な軟骨原性細胞の凝集を阻害しているが、このシグナルが遮断されることにより細胞凝集が誘導され、引き続いて軟骨原基が形成されるものと考えられる。フィブロネクチンの受容体としてはα3β1、α5β1およびαvβ1が考えられる。これらのインテグリンを特異的に阻害する抗体の入手は困難であった。また、アンチセンスの強制発現により、インテグリンの機能を完全に阻害することも不可能であった。このため、インテグリンのサブユニットの決定はできなかったが、分化した軟骨細胞においてフィブロネクチンの受容体はα5β1であり、chondrogenesis誘導を調節しているインテグリンもα5β1である可能性が強い。
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