研究概要 |
(Na^+,K^+)-ATPaseは生体膜のナトリウムポンプとして機能しており、静止膜電位の調節、neurotransmittersの遊離調節や細胞内水分量の調節に関与している。一方、nitric oxide (NO)は、中枢神経系において、neurotransmittersの遊離や長期増強作用・長期抑制作用の他・脳虚血時の細胞障害・細胞死に関与することが示唆されている。本研究では、ブタ大脳皮質の膜成分より精製した(Na^+,K^+)-ATPase 活性に対する各種NO発生薬の影響について検討し、以下の結果を得た。(1)現在、一般に使用されている各種のNO発生薬は濃度・時間依存的に(Na^++K^+)-ATPase活性を抑制し、NOスカベンジャーはこれら抑制作用を阻害した。(2)sulfhydryl(SH)-compoundsや抗酸化剤であるascorbic acid(VC)はNO発生薬による本酵素活性の抑制を阻害したが、脂質の抗酸化剤である alpha tocopherol (VE)では阻害しなかった。(3)NOを特異的に消去し nitrogen dioxide radical を生成させる薬物carboxyphenyl-tetramethylimidazoline-1-oxyl-3-oxide(PTIO)はNO発生薬による本酵素活性の抑制作用を増強した。(4)incubation medium中の遊離Ca^<2+>濃度が静止状態の細胞内濃度以上(7.5×10^<-7>M)になるとSH-compounds の抑制阻害作用が減弱した。(5)NO発生薬やPTI0との併用による本酵素活性の抑制をSH-compounds は回復させたが、NO スカベンジャー、VC や VEでは回復させなかった。 以上の結果、NO発生薬は、NO や NO 派生物質(nitrogen dioxide radical および peroxynitrite)が、酵素蛋白の活性中心であるSH基を酸化することにより、(Na^+,K^+)-ATPase 活性を抑制することを示唆し、併せて細胞内遊離Ca^<2+>が増加すると SH-compounds の抑制阻害作用が減弱することを示唆した。
|