研究概要 |
唾液細菌であるStreptococcus sobrinus(旧名Streptococcus mutans)とStreptococcus salivariusのそれぞれが産出するα-Glucansの延伸フィルムを作製し、それらを熱処理して結晶化し、X線回析図形を測定した。S. salivariusのGlucanは繊維図形を示し、バックボーン鎖であるα-1,3-Glucanはよく延びた2回らせん(ジグザグ)構造を採っていることが明らかとなったが、側鎖の構造については情報は得られなかった。一方、S. sobrinusが産出するGlucan(虫歯生成要因であるプラークを形成)では粉末図形のみを示し、繊維図形は得られなかった。これはこのGlucanの分子量が低いために、分子鎖が配向しなかったためと考えられる。そこで、得られた粉末図形に基づいて結晶のシミュレーションを行った結果、このGlucanでも主鎖のα-1,3-Glucan分子鎖がジグザグ構造を採っていることが明らかとなった。また、α-1,6-Glucanのコンホメーション解析をおこない、その結果に基づいて、主鎖Glucanに1,6-結合して歯のエナメル質に粘着する要因と考えられている側鎖α-Glucoseが採りうるいくつかの立体配座が得られた。 また、プラークを形成するGlucanと複合体を作ることによって、虫歯防止の作用がある予想されているキチンとキトサンのエチレングリコール(EG)誘導体についても配向試料を作製し、それぞれの繊維図形を得、エネルギー計算を併用して解析をおこなった結果、バックボーン分子鎖はいずれも2回らせん構造を採っており、それらの断面図をみると、誘導体全体の立体構造には相違があるとしても、キチンの6位の酸素原子に結合した側鎖EGとキトサンの3位の酸素原子に結合したEGがそれぞれのバックボーン鎖と直線構造を採っており、この構造がGlucanとの複合体形成に関与することが予想される。
|