研究概要 |
平成9年度までの研究から,歯の表面のエナメル質のモデルである疑似六方晶系の結晶構造を持つハイドロオキシアパタイト(HAP)と虫歯成因のプラークの成分であるα-Glucanとの間には水素結合のような強い相互作用は存在しないと考えられた. 従来,キチン誘導体などの虫歯予防物質の効果は,虫歯成因である唾液細菌Streptococcus sobrinusに対する阻害作用で測られてきた.一方,虫歯形成の直接の原因はS.sobrinusによるショ糖分解生成物の乳酸が歯の表面を構成しているエナメル質のHAPを溶解する,いわゆるエナメル質の脱灰であるとされている.そこで,虫歯予防剤として使用されているカルボキシメチルキチン(CMキチン),エチレングリコールキチン(EGキチン)とキシリトールについて,疑似六方晶系のHAPの乳酸溶解性に対するそれぞれの添加効果を検討した.その結果,HAPの乳酸溶解性に対するキシリトール添加効果は見られなかったが,CMキチンとEGキチンの添加では溶解性が低下した.この効果がキチン誘導体の高分子性によるものであるかどうかを調べるため,カルボキシメチルセルロース,キトサン,水溶液の部分脱アヤチル化キチン,デキストランの添加効果を調べたが,いずれもHAPの乳酸溶解性に対する阻害効果は認められなかった. 以上のことからある種の虫歯予防剤ではS.sobrinusに対する阻害効果以外にHAPに対する乳酸の溶解性を低下させることにより,虫歯予防に寄与するのではないかと考えられた.今後はこの乳酸溶解性に対するキチン誘導体の阻害効果の機構を探求する.
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