研究概要 |
唾液分泌機構のイノシトールリン脂質(PI)代謝回転に対するジアゼパム(DZP)の影響を調べ、ベンゾジアゼピン(BDZ)系薬物による唾液分泌抑制を明らかにした。1.ラット耳下腺腺房細胞を用いた実験において、(1)カルバコール(CCh;10^<-4>M)によるムスカリン受容体刺激時の細胞内イノシトール-1,4,5-三リン酸(IP_3)産生は、DZP(10^<-9>〜10^<-5>M)により用量依存性に減少した。しかし、100%抑制されることはなく、最大の減少率は約40%であった。(2)IP_3量の減少は、腺房細胞とDZPとの短時間(1分以内)の前処置によってもたらされた。(3)CCh(10^<-6>〜10^<-3>M)によるIP_3産生曲線は、DZPによって最大産生量が低下し、下方向に移行する非競合的阻害であった。(4)DZPによるIP_3産生の減少は、中枢型および末梢型BDZ受容体拮抗薬であるフルマゼニルとPK11195により45〜65%抑制され、両拮抗薬の併用により完全に抑制された。2.ラット耳下腺形質膜を用いた実験において、(1)フッ化ナトリウム(10mM)により細胞膜のGTP結合蛋白質を刺激した時のホスホリパーゼC(PLC)活性は、DZP(10^<-8>〜10^<-5>M)により用量依存性に減少する傾向が認められた。しかし、その最大減少率は約10%と低い値であった。(2)形質膜を2M KClおよび1%コール酸ナトリウム処理により得た膜可溶性画分のPLC活性は、DZP(10^<-8>〜10^<-5>M)によっても顕著な変化は認められなかった。以上の結果は、DZPがPI代謝回転を抑制し、その結果、IP_3産生が低下し唾液分泌が抑制されることを示していた。このPI代謝回転に対する抑制作用は、DZPがムスカリン受容体、GTP結合蛋白質、PLCに対して直接作用して抑制しているのではなく、細胞膜のBDZ受容体を介した作用であることが強く示唆された。
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