研究概要 |
酸素ラジカルおよび活性酸素の産生は種々の臓器における虚血性障害の重要な原因と考えられている.現在,直接的に生体内ラジカルを定性,定量するための信頼できる方法として,パルス放射線分解法およびLバンド電子スピン共鳴装置(ESR)を用いる以外に方法はない.しかし,パルス放射線分解法はきわめて精巧であるが高価であることや生体への影響が大きいなどの問題がある.また,ESR法では測定できるフリーラジカルの理論的限界は,XバンドESR(周波数帯:10GHz)で約10nMであると推測されているが,実際の測定限度は約1μMである.LバンドESR(周波数帯:1GHz)では誘導損失等により測定感度がさらに減少する. (目的)我々は,in vivoあるいはin situにおいてラジカル反応を簡便かつ高感度に,しかもリアルタイムで測定できるオプティカル・バイオセンサーシステムの開発を目指している.オプティカル・バイオセンサーは光ファイバーに各種の酵素を固定することにより種々の生体内物質をリアルタイムで測定することが可能で,しかも光学的検出によるため,電気的ノイズにも影響を受けにくく,したがって,生理活性物質のモニターとして有力な武器となる.本研究では,これを虚血モデル実験に応用し,生体内ラジカル(superoxide radical,O_2)生成に関与すると考えられているhypoxanthineの検出・定量を試みた. (方法)予備実験においてオプティカル・バイオセンサーの検出感度を最適にするための条件設定を行い,化学発光試薬,分子識別分子および光増感試薬の濃度および酵素固定法を決定した.虚血モデルは,ウサギ耳介動脈を閉塞(90分間)することによって作成し,虚血直前/直後の耳介静脈血中hypoxanthine量を測定した. (結果と考察)バッチ法を用いた場合,虚血直後の耳介静脈血の血漿hypoxanthine含有量は,虚血前と比較して有意に増加することが確認できた.虚血-再灌流障害にラジカルが関与することが受け入れられているにもかかわらず,その発生源についてはいまだ不明な点が多い.本実験において、hypoxanthineが血漿中で増加する傾向が認められ,これが、再灌流に際して内因性xanthine oxidaseの基質となり,その結果,O_2を産生することから,虚血-再灌流時の生体内ラジカル発生源として位置づけられることを確認した.また、組織の嫌気的異化反応の結果,血中へアデノシン代謝産物が漏出することも示唆できた.我々の試作したhypoxanthine検出用オプティカル・バイオセンサーは生体内ラジカル生成物質をモニターするために有効なプローブであることを確認した.併せて,フロー・インジェクション法を改良した体外循環回路内に本バイオセンサーを設置し,虚血-再灌流モデルの体循環系でのhypoxanthine量を経時的にリアルタイムで測定できるシステムの有効性を検討中である.
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