平成8年度は歯髄腔を含む象牙質切片から象牙質付着細胞由来のDNAを抽出し、そのDNAを用い、法医学における歯による個人識別の最も基本となるABO式血液型判定の精度について、従来の解離試験法と比較検討した。その結果、PCR法によりDNAが増幅された歯については、DNA分析による方法が、精度および判定の容易さで解離試験よりすぐれていた。一方で、歯由来のDNAがPCR法により増幅しない原因を抽出過程で混在する歯質由来のPCR反応阻害物質と仮定し、その除去法を確立した。方法は種々の条件下に保存した歯を低速度カッターを用い長軸に沿って縦断し歯髄腔を含む象牙質切片を作成し、0.5M EDTAで十分脱灰後、蛋白分解酵素により分解、溶液から象牙質付着細胞由来のDNAのみをフェノール/クロロホルムで抽出した。エタノール沈殿でDNAを回収後適当量の蒸留水に再溶解し、DNA溶液とした。このDNA溶液を用いてPCR反応を行ったところ、反応に十分な量のDNAが存在するにもかかわらずPCR反応でDNAの増幅を認めないものがあった。この理由として、抽出過程で歯質由来のPCR阻害物質としてCaやMgの混在が疑われた。そこで金属イオン除去に効果のあるキレックスを用いたカラムを考案した。このカラムにPCR反応で増幅しなかったテンプレートDNA溶液を加え精製したところPCR反応の成功率は飛躍的に向上し、キレックスによるPCR阻害物質除去効果が証明された。来年度はこの抽出、精製法を用いて得られた歯由来のDNAが法医学的に有効であることを、法医鑑定で広く用いられているPCRプライマーで検討する予定である。
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