法医学における歯の有効性は硬組織としての保存性の高さに起因する個人識別における役割である。従来は歯の解剖学的形態による個人識別への応用が主であったが、最近の遺伝子工学の発展がDNA分析の可能性を広げ、歯学においても、歯に含まれるDNAを利用することで新しい個人組織への情報源としての歯の可能性を示唆した。 本研究は、鑑定試料として嘱託を受けた歯を想定し、実験室で各種条件下におかれていた歯からDNAを抽出、歯髄由来DNAの法医DNA鑑定における応用の可能性を研究目的とした。 平成8年度は、歯髄が変性消失している歯からの有効なDNA抽出法として、髄腔壁を含む象牙質切片からDNAを抽出しそれをキレックススピンカラムを用いて精製した結果、PCR反応において良好な増幅が可能であった歯髄由来DNAを得ることができた。 平成9年度は、精製された歯髄由来DNAをテンプレートとして用い、ミトコンドリアDNA(mtDNA)のDループをPCR法により増幅しその多型領域の塩基配列を決定するmtDNAダイレクトシーケンス法への応用、さらに広く法医DNA鑑定で用いられているDIS80、HLADQα領域を増幅するプライマー、TH01などShort Tandem Repeat領域を増幅するプライマーをそれぞれ用いたPCR法へ応用したところ、対照とした新鮮血由来DNAをテンプレートとした結果と同等の結果を示した。 身元不明死体や損壊の著しい死体で歯が唯一の身元確認の決めてになることは衆知のことである。従来の形態を主とした個人識別にDNA分析を応用することは今後不可欠になると思われ、歯由来DNAがその個人のDNAとしてDNA鑑定に用いることが可能であるといった今回の研究実績はその根拠となると思われる。
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