牛アキレス腱、子牛骨、成牛骨、牛の歯牙象牙質から厚さ約0.8mmの薄板を切り出し、脱灰、凍結乾燥後、直径約7.5mmのディスク状に成形した。カルシウムイオンと燐酸イオンが互いに反対方向からディスク状の基質を通って、各々、燐酸塩溶液側、カルシウム塩溶液側へ拡散する二重拡散システムにて石灰化実験を行った。カルシウム塩とリン酸塩の濃度が、各々、1.5-30mM、1.5-7mM、37°C、pH7で1日反応させ、基質内外の燐酸カルシウム塩を析出状態を調べた。さらに、ガラス繊維膜とコラーゲン繊維膜を用いて、同様の反応を行わせた。その結果、アパタイトとその前駆体であるオクタカルシウムリン酸塩の結晶が基質線維上に析出すること、基質内部への析出は、その構成要素の種類や性質よりもむしろ、基質を構成する繊維の緊密度に大きく依存することが明らかとなった。例えば、アキレス腱、骨、象牙質では、カルシウム塩とリン酸塩が3mM以上の場合に基質内部への析出が見られたが、繊維間隙が大きいガラス繊維膜では、カルシウム塩とリン酸塩が1.5mMの場合でも膜内部の繊維上に燐酸カルシウム塩の析出が見られた。一方、繊維間隙がほとんどないコラーゲン繊維膜では、膜表面には燐酸カルシウム塩が析出したが、カルシウム塩とリン酸塩の濃度を30mMと7mMに上げても、膜内部への析出は見られなかった。カルシウム塩とリン酸塩が3.6mMの場合で比較すると、ガラス繊維膜への析出が最も多く、象牙質ディスクの内部への析出は、アキレス腱、子牛骨、成牛骨と比較すると少なかった。架橋結合と石灰化部位との関連については、現在調査中であるが、牛アキレス腱、子牛骨、成牛骨の場合に、コラーゲン繊維の繊維軸にオクタカルシウムリン酸塩のc軸が平行となるような配向成長が観察された。
|