研究概要 |
下顎頭後面に散見される陥凹像(Concavity)は,骨形態(構造)変化を表現する用語の一つであるが,その成因や臨床的意義は明らかにされていない。断層X線写真とMR画像の両者を比較した患者症例の場合では,X線写真において骨皮質の明瞭なもの,不明瞭なもの,さらに部分的に不明瞭の疑われるものが存在した。MR画像と対比すると陥凹の程度が大きくなったり,骨皮質が不明瞭になるにしたがって,関節円板は復位のない前方転位の状態にある傾向が認められた。また,臨床的には陥凹像が経時的に変化しない場合と短期間のうちに変化する場合を経験している。そこで,複数回の検査を行った患者の断層X線写真を比較観察し,初回撮影時における出現率と撮影間の変化率等について分析した。406名の患者における分析では,初回撮影時の陥凹像の検出率は関節数にして19.7%,症例数の割合にすると30.3%であった。初回撮影時に陥凹像を認めたもののうち約半数では,以後の撮影で新たな変化が確認された。凹みが大きいものほどあるいはその部分の皮質骨が不明瞭である場合が変化の発生する割合は高かった。 一方,顎関節X線検査の結果報告書を作成するにあたり,その内容をデータベース化し,その項目の中に検査以降の形態変化の発生予測に関する事項を設けた。項目の設定には,前述のデータおよび過去の多数の臨床画像の分析や報告書に記載されている用語をもとにした。1997年中にデータベースに登録された件数は,304件であった。その中で複数回の検査を受けたものは,6名であった。それらは,すべて1回目と2回目の結果が登録されていた。6名(12関節)のうち,予測と結果が一致したのは8関節,一致しなかったのは4関節であった。予測内容を検証した症例数が,まだわずかであるため,今後より多くの症例について検証を行い,初診時の診断精度の向上に繋げたい。
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