ウイスター系雄性ラットの下顎第一臼歯歯頚部にゴム輪を挿入し、実験的歯周炎を引き起こした。そのラットを屠死した後、低温下で固定し、凍結包埋した。クライオスタットで薄切切片を作製した後、間接免疫蛍光抗体法を行い、一酸化窒素産生酵素をFITCで標識した。一酸化窒素産生酵素には、由来の異なる3種類(脳、血管内皮細胞、マクロファージ)を用い、その局在の違いを検討した。その結果、炎症の程度がひどい内縁上皮は3種類の酵素すべてが誘導されたけれども、その範囲は浅在的であった。すなわち、炎症が誘導された箇所に一酸化窒素産生酵素が観察され、酵素の由来に関係なく存在した。これは、使用した一酸化窒素産生酵素とそれ以外の生体に本来常在している一酸化窒素産生酵素が免疫学的に区別できない抗原部位を共有している可能性があるものの、炎症に際してその発現部位に観察され、炎症反応ではこの酵素が重要な役割を担っていることを示唆している。抜歯や歯周外科処置に伴って採取されたヒト健全歯肉や弱い炎症を示していた歯肉では、歯肉内の炎症性細胞に誘導性一酸化産生酵素が観察されたが、内縁上皮内ではほとんど存在せず、そのほかでは結合組織の血管内皮細胞にFITCの蛍光が見られた。この血管内皮細胞の3種類の一酸化窒素産生酵素抗体すべてに反応しているため、常在性のもので、炎症による誘導ではないと考えられる。また、健康あるいは弱い炎症を示す歯肉では、一酸化窒素産生酵素の誘導があまり顕著でないことが示唆された。
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