実験にWistar系普通および無菌飼育雄性ラット、計102匹を用いた。ラットの辺縁歯肉にゴム輪で刺激を加えた後、非糖尿病(以下、N-DM)群、ストレプトゾトシン(以下、STZ)投与により血糖値を上昇させた糖尿病(以下、DM)群、さらにSTZ投与により上昇させた血糖値をインスリン投与により改善させた糖尿病-インスリン(以下、DM-1)群に分けた。14日と28日で屠殺し、血糖値測定(随時血糖値)、病理組織学的および組織計量学的検索を行った。 その結果、 1、普通および無菌飼育のSTZ誘発糖尿病ラットにインスリン投与を行うことにより糖尿病の典型的症状が改善した。 2、平均血糖値はN-DM群で133mg/dl、DM群で529mg/dl、DM-1群で121mg/dlであった。 3、普通飼育ラットの病理組織学的所見からDM群ではN-DM群に比較して歯周組織の炎症性変化が著明であったが、DM-1群ではN-DM群と同程度であった。 4、普通飼育ラットの歯槽骨の面積計測から、歯槽骨吸収量はDM群>DM-1群≧N-DM群であり、DM群と他の2群との間には統計学的有意差があった。 5、3、および4、の所見について無菌飼育ラットでも、同様の傾向が得られた。 6、無菌飼育ラットでは普通飼育ラットより炎症の程度が軽度であり、DM群と他の2群との間の差は無菌飼育ラットの方が小さかった。 以上より、糖尿病ラットにインストン投与を行うと機械的刺激と口腔内細菌に由来する刺激で生じた歯周組織の炎症性変化および損傷の程度が軽減することが示された。また5、の結果から口腔内細菌の影響がなくても糖尿病ラットの歯周炎の進展阻止に血糖コントロールが重要であることが示唆された。さらに6、の結果から実験的歯周炎の進展においてDM群が口腔内細胞の影響を最も強く受けていたと考えられ、糖尿病ラット歯周組織の細菌感染に対する抵抗力の低下が示唆された。
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