研究概要 |
象牙質の病態がレジン接着に及ぼす影響を解明することを目的として、まず第一に齲蝕硬化象牙質および歯頚部摩耗硬化象牙質を有するヒト抜去歯を収集し、in vitroでのレジンの硬化象牙質への接着力を微小引っ張り試験法(MTS)を用いて測定するとともに接着界面の微細形態をSEM,TEMおよびXMAを用いて観察した。さらに成犬を用いてin vivoで楔状欠損を発症させ、当該部位におけるレジン接着力を測定するとともに接着界面の微細形態とレジン浸透性を多角的に解析した。 齲蝕硬化象牙質へのセルフエッチングレジンの接着力をMTS法を用いて測定した結果、健全象牙質では30MPa前後の接着力が得られたのに対して硬化象牙質では15〜20MPaと有意に低い値であった。また歯頚部摩耗硬化象牙質においても、いずれの最新の接着システムもその接着力は健全部のほぼ半分の値しか示さなかった。さらにこのような病的象牙質とレジンとの接着界面では典型的な樹脂含浸層とレジンタグの形成を阻害されており、レジン浸透性が大きく減弱されることが判明した。 次いで、成犬を用いてin vivoで大臼歯歯頚部に楔状欠損をダイヤモンドポイントを用いて形成しセルフエッチングシステムを充填し抜歯後MTS法にて接着力を測定した結果、犬歯咬合面象牙質より有意に低い値が得られ、特に歯根部象牙質では最も接着力が低下していた。さらに楔状欠損部深層象牙質ではin vitroではほとんど認められなかった象牙芽細胞突起様の構造物tube-like structureが接着界面直下まで進展しており、樹脂含浸層は認められなかった。 以上の結果から、象牙質齲蝕症や歯頚部磨耗症はレジンの浸透性を大きく阻害するとともに、in vivoでは歯髄象牙質複合体がレジン接着に大きく関与していることが示唆された。
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