研究概要 |
培養歯肉上皮細胞を用いて分泌型白血球蛋白分解酵素阻害物質(SLPI)の産生を検討するとともに,歯周病患者歯肉溝滲出液(GCF)中におけるSLPIの動態について検討した。まず,採取した臨床的健康歯肉から歯肉上皮細胞および歯肉線維芽細胞の分離・培養を行った。その後,一定時間無血清培養した細胞にIL-1αおよびIL-1β(0〜100U/ml),TNF-α(0〜1,000ng/ml)を添加し,4hr培養し,採取した上清中に含まれるSLPI量,α1-AT量をsandwich ELISA法にて測定した。その結果,歯肉上皮細胞は無刺激の状態でSLPIを産生し,IL-1α,IL-1βの刺激のもとでは,刺激濃度が上昇するにつれてSLPIの産生量は減少する傾向が認められた。TNF-αの刺激のもとでは,刺激濃度が上昇するにつれてSLPIの産生量は有意に抑制された。また,α1-ATの産生は無刺激の状態でわずかであり,サイトカインの刺激に対して若干変動する傾向が認められた。歯肉線維芽細胞のSLPI,α1-ATの産生はサイトカインの刺激にかかわらずほとんど認められなかった。次に,成人性歯周炎患者10名(平均年齢50.7歳)を対象として,被検部位32部位に対して,臨床的診査,DNAprobe法による歯肉縁下プラーク中の8種類の歯周病関連細菌の検出・同定,採取したGCFの量を計測した後,GCF中の好中球エラスターゼ(NE)活性とSLPI量を測定した。その結果,P.gingivalis,B.forsythus,T.denticolaの菌数が多い部位では少ない部位に比べて,NE活性は上昇し,SLPI量は減少する傾向が認められた。さらに,歯周ポケット内に炎症が認められた場合,P.gingivalis,T.denticolaの菌数が多い部位ではSLPI量は有意な減少を示した。以上のことから,SLPIは歯肉上皮細胞から分泌され,歯周組織中ではある種のサイトカインや歯周病関連細菌によって影響を受けていることが示唆された。
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