研究概要 |
培養歯肉上皮細胞を用いて分泌型白血球蛋白分解酵素阻害物質(SLPI)の産生を検討するとともに、歯周病患者歯肉溝滲出液(GCF)中におけるSLPIの動態について検討した。まず、採取した臨床的健康歯肉から歯肉上皮細胞の分離、培養を行った。酵素抗体法により、培養細胞内や細胞表面にSLPIが存在することを確認した。次に、一定時間無血清培養した細胞にActinobacillus actinomycetemcomitans(A.a)、Porphyromonas gingivalis(P.g)、Prevotella intermedia(P.i)から調製したextracellular vesicle(ECV)(0〜100μg/ml)を添加した。4hr培養後、採取した上清中に含まれるSLPI量をsandwich ELISA法にて測定した。その結果、歯肉上皮細胞は無刺激の状態でSLPIを産生し、P.gECVの刺激濃度が上昇するにつれてSLPIの産生量は抑制され、A.a、P.iECVの刺激下では高濃度においてSLPIの産生量は若干抑制される傾向がみられたが、あまり影響を受けなかった。次に、成人性歯周炎患者16名(平均年齢50.7歳)を対象として、被検部位32部位に対して、臨床的診査、DNAprobe法による歯肉縁下プラーク中の8種類の歯周病関連細菌の検出・同定、採取したGCFの量を計測した後、GCF中の好中球エラスターゼ(NE)活性、SLPI量、α1-AT量を測定した。その結果、P.g、B.forsythus、T.denticola(T.d)の菌数が多い部位では少ない部位に比べて、NE活性は上昇し、SLPI量は減少する傾向が認められた。さらに、歯周ポケット内に炎症が認められた場合、P.g、T.dの菌数が多い部位ではSLPI量は有意な減少を示した。以上のことから,SLPIは歯肉上皮細胞から分泌され,歯周組織中では歯周病関連細菌によって影響を受けていることが示された。
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