本課題に関して次の2系から研究を行った。 1.口腔内から得られた歯牙破折片の観察 54歳の女性の歯内療法処理済の6で、支台歯形成の施されていた歯の近心歯根に生じた垂直性破折例(症例1)および68歳の女性の歯内療法処置済で全部鋳造冠修復の施されていた6の近心根の垂直破折例(症例2)より得られた歯根破折片につき観察した。 観察は破折片に付着した有機物を除去した後、そのまま次いで齲蝕検知液により染色してから先ずScopeman顕微鏡により観察した。次いで破折片を通法に従いSEM観察に供した。その結果、以下の所見を得た。 症例1では、破断面頬側部に光顕によりアマルガムによる褐色の着色と検知液による染色部が広範囲に見られた。SEM観察では斑紋様や皺状構造ならびに微細顆粒状物が見られた。このことから破折裂隙が長期間存在し、陳旧性齲蝕が生じていたものと考えられた。一方、破断片舌側部のSEM観察では象牙細管束にほぼ平行に走行する多くの波状構造が見られたが、これは外力により生じた歯質の破壊構造の一形と考えられた。 症例2では、SEM観察により症例1におけると同様な波状構造の他、大きな山状構造や小隆線、段状および輪状構造など部位により多様な像が認められた。 2.抜去歯を用いた実験的破折歯の観察 ヒト抜去上顎中切歯を歯頚部で水平切断し、その歯根に対して切出し小刀を槌打して頬舌的に縦分割した。破断面を光顕およびSEMにより観察した。その結果、応力の走行にほぼ一致して脆性材料に特有のリバーパターンなどの破壊構造が見られた。これらの所見は口腔内の実際の歯牙破折構造を分析する上で極めて有意なものと考えられた。
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