研究概要 |
下顎全部床義歯の機能時の動揺に関し、歯槽頂間線法則に従った力学的配慮に基づく人工歯排列法(以下、A排列と表記する)と、筋圧平衡や審美性、装着感を優先した天然歯列の再現を目的とした人工歯排列法(以下、N排列と表記する)の2種の人工歯排列を全部床義歯を製作し(同一義歯床内で交換できる)、シミレーションモデル上に配置した。厚さ1mmと4mmの疑似食品(シリコーンラバー)を介在させて、中心咬合位と側方偏心位の2種の咬合位で荷重し、義歯床の3次元変位を測定した。その結果、1.両排列義歯とも同様な変位傾向であり、前方かつ、作業側方向へ水平的に移動し,平衡側では浮上が生じた.2.排列位置の違いに関しては,同一条件間でA排列がN排列より小さかったが,その相違は前報における上顎義歯ほど著明ではなかった.また一部の例外を除き下顎義歯の各方向への変位量は両排列義歯とも上顎義歯より少なかった.これは上顎義歯の変位は,口蓋を支点としたテコ様変位であったため作業側の沈下により大きな平衡側の浮上が生じた.それに対し,下顎義歯では,明確な支点がないためテコ様変位をせず前作業側方向への水平移動が主となり作業側の沈下に比較し平衡側の浮上は小さいものだった.これは両者の変位量の違いとなったものと考えられる.3.疑似食片の厚みによる影響では,両排列とも中心咬合において1mm疑義食片の方が4mm疑似食片よりB点の浮上量が大きく,偏心咬合では1mm疑似食片の方が逆に小さくなった.これが中心咬合において1mm疑似食片が、4mm疑似食片より薄く弾性体であるため,閉口時,臼歯後方咬合小面の影響を受けやすく,義歯が前方椎進し作業側での義歯床の沈下が生じた結果,義歯変位が大きくなったと考えられる.一方,偏心咬合では作業側臼歯が咬頭対咬頭の関係にあり,咬合小面の影響を受けづらく,しかも同位では,荷重方向が中心咬合より舌側に作用したため変位が小さくなったと考えられた.以上の結果から下顎義歯の機能時の動揺は顎位および疑似食片の厚みに影響されるが,臼歯の排列位置に関しては上顎義歯より影響を受けづらいことが示唆された
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