研究概要 |
前年度まで、上下顎の平均的な顎堤形態で歯槽頂間線角度80゚の顎堤モデルによる全部床義歯の機能的動揺を検索してきたが、今回は、総義歯臨床上最も困難で頻度も少なくないと思われる上顎の顎堤の吸収が強く前歯部にフラピーガムを有する症例を想定し、上顎顎全部床義歯の機能時の動揺について検討した。シミレーションモデルは上顎顎堤の吸収が強く、歯槽頂間線角度を80゚とし、このモデルから歯槽頂間線法則に従った力学的配慮に基づく人工歯排列法(以下、A排列と表記する)と、天然歯列の再現を目的とした人工歯排列法(以下、N排列と表記する)の2種の人工歯排列を行った全部床義歯を製作し(同一義歯床内で交換できる)、これら2種の義歯をシミレーションモデル上に設置し、厚さlmmと4mmの疑似食品(シリコーンラバー)を作業側として介在して、中心咬合位と側方偏心位で5kg荷重し、三茨元座標測定機によって実験義歯に設けた3つの標点(前歯部相当部辺縁=I点,作業側辺縁=W点,平衡側辺縁=B点)の変位を義歯床の漱元変位として測定した。その結果、1.両排列義歯とも下顎義歯の位置,擬似食片の厚みにかかわらず,一部を除き1点は鯖方かつ平衡側方向,W点では作業側前方方向,B点は作業側前方に大きく浮上するという同様な変位傾向を示した.2.顎位の相違については中心咬合よりも偏心咬合において,変位量が大きくなる傾向がみられた。3.排列位置の相違では,顎位や食片の厚みにかかわらず,N排列義歯の方がA排列義歯よりも大きな変位を示す傾向が強く,平衡側の浮上量において顕著であった。4.擬似食片の厚みによる影響では,両排列義歯とも中心咬合において,4mm擬似食片の方が1mm擬似食片より大きな変位を示す傾向がみられたが,偏心咬合では一定の傾向はみられなかった。以上の結果から,上顎無歯顎のフラピーガムの症例での上顎義歯の機能的動揺は大きく,顎位,介在食片の厚み,および人工歯排列位置に影響をうけるが,人工歯排列位置による影響がより大きいと考えられた.
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