研究概要 |
[ 目的 ] 高齢義歯装着者の義歯への満足度が,精神および自律神経機能に与える影響を検討した. [ 方法 ] 被験者は咀嚼機能に満足の得られている当科総義歯リコール患者30名(67.9±6.31歳,男性10名,女性20名)および新義歯製作を希望して当科来院した患者のうち全身的に大きな疾患を有さない患者39名(66.9±8.44歳,男性15名,女性24名)を対象とし,義歯治療開始前および治療終了後(装着より1,2ヵ月)に義歯機能アンケート(37項目)により義歯に対する主観的満足度をVASにより評価した.同時に心理テスト(CMI健康調査表,Y-G性格特性,MAS不安尺度,MD抑うつ尺度)による精神心理特性および自律神経症状調査表による自律神経失調症状の評価を行い,先の義歯に対する満足度の評価と比較検討した.さらに客観的自律神経機能検査として心電図心拍数変動・CV_<R-R>を新旧義歯装着時の咀嚼,クレンチング,タッピング運動負荷の前後で比較した. [ 結果 ] 1.リコール患者および新義歯装着後は,旧義歯装着時より有意に義歯への満足度が得られた. 2.義歯の満足度の向上は,神経症傾向,不安,怒り,抑うつ尺度の減少,情緒安定性,外向性を示し,自律神経症状愁訴の減少を認めた.特に不適合義歯装着による唾液分泌・味覚の異常に対する不満項目は自律神経症状愁訴や神経症傾向と正の相関を認めた. 3.義歯の満足度の向上による精神心理特性の変化と性差および年齢との相関より,女性および高齢者ほど精神心理特性への影響が示唆された. 4.心拍数変動・CV_<R-R>による自律神経機能には新旧義歯装着による有意差を認めなかった. 以上により,義歯の良否は精神心理的側面および自律神経症状愁訴に影響を与え,その影響は女性および高齢者ほど表れやすいことが示唆された.しかし,自律神経機能検査は検査項目,被験運動および検査期間などについてさらに検討の必要性を認めた.
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