被験者と実験方法:顔面頭頚部の筋痛を主訴に岩手医科大学歯学部附属病院第二補綴科を受診した顎関節症患者36名(男性10名、女性26名、平均年齢44.4±17.9歳)を対象に、治療開始期における評価として心理テスト、顎関節部MRI所見の評価、治療前後の比較として、開口量の変化、visual analogue scale (VAS)による主観評価の変化を調べた。なお、治療法としては、スプリント装着、バイオフィードバックによる筋弛緩訓練、理学療法、ホームケア、簡易精神療法などを組み合わせた保存療法を行った。 研究結果:心理テストからは、慢性筋痛患者の73.3%がいずれかの項目で異常と判定された。これは、かつて調査した当科受診の顎関節症患者の45.5%、顎関節症以外の患者の27.6%と比較してはるかに高い割合であった。MRI所見からは、60関節中22関節(36.7%)で関節円板転移所見が認められた。治療前32.1±10.9mmであった開口量が治療後では39.8±8.2mmへと増加した。これは顎関節症患者全体を対象とした調査結果(治療前;35.8±9.8mm、治療後;41.4±9.3mm)と同じ傾向を示した。治療前後のVASにより求めた改善度からは、すべての項目で改善傾向が認められた。顎関節症全体の患者で求めたデータと比較すると、治療前の自発痛が高い傾向を示したものの、他の項目ではほぼ同様の傾向を認めた。 以上の結果から、顎関節症患者の中でも慢性筋痛患者では心理特性に問題が多く、自発痛を強く訴える傾向が認められた。保存療法に対する効果が認められたが、今回の筋痛患者に対しては、各種治療法が組み合わされていることから、今後個々の治療法の効果を検討する必要がある。
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