歯科充填修復用材料の窩洞辺縁封鎖性を一次スクリーニングするための定量的評価法を確立する研究の一環として、ウシ歯質板試料に形成した擬似窩洞を歯科用コンポジットレジンおよび歯科用グラスアイオノマーセメントで修復した試料について、独自に開発した辺縁封鎖性試験装置によって熱サイクルに対する辺縁漏洩挙動を連続測定した。 前年度実施したSUS316ステンレス擬似窩洞に対する測定と同様に、歯質試料に対する測定においても負荷熱サイクル数の累積とともに漏洩量は増大し、その動態の実験式として高次多項式を採用する場合やはり負荷熱サイクル数の3次式で示すのが現段階では妥当であった。得られた多項式を漏洩量0に外捜して漏洩開始熱サイクル数を推定できる点も従来の結果と同様であった。 また、コンポジットレジン修復のほうがグラスアイオノマーセメント修復に比べて漏洩開始時期が遅く、漏洩挙動の回帰係数が小さい傾向は、歯質試料の場合もSUS試料の場合と同様であり、特に歯質窩縁を酸処理した場合は辺縁封鎖性に特段の改善が認められた。 以上より、新材料に対して本試験を適用することで、臨床的に評価を得ている充填修復材料での結果と比較すれば実用的な見地から十分一次スクリーニングができると考える。 しかし、熱機械的分析装置による歯質の熱変形挙動測定では、歯質の構造異方性および個体差が原因すると見られる測定値の再現性の乏しさが認められ、得られたデータの範囲で漏洩挙動を修復系の物性と定量的に関連させることは困難であった。ただ、熱変形挙動、力学的性質、溶解性、接着性などの修復系の物性と漏洩挙動との間には定性的な因果関係を窺わせる結果を得ており、歯科修復物辺縁封鎖性を修復系の物性と定量的関係を明らかにするためには適切なモデル化によって今後データを集積する必要がある。
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