研究概要 |
高齢者の歯・顎・口腔は老化現象に伴っての歯の部分的な喪失、口腔管理の不十分さなどより、残存している歯の健康度に対して種々な障害となる事項がある。この残存している歯の障害となる事項のうち、歯の位置や上下顎の対咬状態などによる咬合接触の有無と個々の条件は残存歯の保全をはかる上に重要な因子と言うことが出来る。 本研究は高齢者の残存歯の状態を咬合接触の有無より観察し、その保全に対する有効な指標を得ることを目的として行った。高齢者の咬合状態をアイヒナ-の分類によりA,B,C,の3群に区分し、各群における残存歯の咬合力、動揺度について検討した。被験者に最大咬合力と中等度の咬合力発揮時に、咬合圧力測定器(プレスケール)を用いて残存歯の咬合力分布状態を観察した。咬合支持の点より咬合接触面積・咬合力との関係をみると、対合接触が全くないC群は、支持域が部分的に失われているB群より接触面積・咬合力の平均値が減少する傾向を示した。また各群において同じ群の中でも被験者間に大きな差があるのは、その欠損様式が多様であるため、一定の傾向は認められなかった。またX線による高齢者の残存歯の骨吸収度は20〜39%で、残存歯の動揺度(ペリオテスト)よりみると上下顎残存歯間に咬合接触のある、いわゆる咬合支持の有無による動揺度を見ると、上顎では咬合支持があるものが、ないものより、動揺度は小さいことが示された。しかし、下顎の残存歯では、咬合接触の有無がとくに動揺度の大きさに差異がみられないことから、上下顎天然歯間部の咬合接触、咬合支持が、動揺度より見て残存歯の有効な保全につながることが示唆されると思われる。いずれにしても歯牙欠損によっては残存歯に負担がかかることは想定されることから、高齢者の咬合状態、歯の動揺度、および歯槽骨吸収度との関連性を幅広く診査し、これらのデータより高齢者の残存歯の状態を咬合型より検討し、残存歯の有効な保全に対応する必要性が示唆された。
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