癌抑制遺伝の一つであるRbタンパク質(pRb)は転写因子E2Fと結合することにより細胞分裂を抑制しており、pRbがサイクリン-サイクリン依存性キナーゼ複合体によってリン酸化されるとE2Fと離開し、細胞分裂が開始することが知られている。これまでにpRbの発現の低下および遺伝子の変異が種々の癌で報告されているが、そのリン酸化の程度を調べた研究はない。今回我々は口腔癌20症例を対象としてpRbの発現およびそのリン酸化の状態をリン酸化部位特異的抗Rb抗体を用いて検索した。 対照群6例では全症例でpRbを発現していたのに対し、腫瘍群では20例中9例でのみpRbを発現していた。また、pRb発現症例に限定すると対照群のpRbはリン酸化されていなかったのに対し、腫瘍群ではThr373のリン酸化が5症例、Ser780は6症例、Ser807/Ser811は8症例で生じていた。リン酸化の程度はどの部位においてもT1からT4になるにつれて上昇する傾向が見られた。pRbを発現しかつ低リン酸化型の症例を活性化型、pRbを喪失しているか高リン酸化型の症例を不活性化型として分類すると、対照群は6症例とも活性化型として、腫瘍群はThr373では20症例中16症例(80%)、Ser780では17症例(85%)、Ser807/Ser811では19症例(95%)が不活性型として分類され、対照群と腫瘍群間で有意差が認められたのに対し、腫瘍群内ではT分類による差は見られなかった。 これらの結果から、pRbの発現だけではなくそのリン酸化の程度を同時に検索する必要があることが示された。また、pRbの不活性化は腫瘍の進展に伴って生じるのではなく、発癌過程の初期に生じることが示唆された。
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