研究概要 |
申請者らは北海道大学歯学部附属病院口腔外科を受診し、病理組織学的に扁平上皮癌と診断された患者を対象に、その生検組織、あるいは外科切除組織を用い、p53遺伝子の異常ならびにヒトパピローマウイルス(HPV)の感染について検索し、高頻度にp53遺伝子の異常、HPVの感染を認めた(Oncogene,12:1663-1668,1996)。また、噛みタバコの習慣のあるスリランカの口腔癌、前癌病変(International Journal of Cancer投稿中)、あるいは口腔癌の動物モデルであるDMBA誘発ハムスター頬粘膜扁平上皮癌(日本口腔外科学会雑誌、42:347-362,1996)についても同様の検索を行い、それぞれの遺伝子異常の相違について検討した。その結果、スリランカの口腔癌ではp53遺伝子のエクソン5に遺伝子の一部欠失を含む比較的大きな遺伝子異常が数多く認められた。これは日本人の口腔癌やDMBA誘発ハムスター頬粘膜扁平上皮癌ではあまり認められないことから、噛みタバコの成分中にp53遺伝子のエクソン5に特異的に異常をきたす因子が含まれていることを示唆している。また、点突然変異を起こした部位はG-Crich regionがほとんどであった。噛みタバコの成分の一つであるslaked limeは強アルカリであり、活性酸素を産生することが知られており、この活性酸素は特異的にGuanosineに結合することによりDNAを障害する。このように遺伝子の特定の部位に異常が集積することから噛みタバコ中の特定の成分が発癌物質としてp53遺伝子をはじめ、他の遺伝子の特定の部位にも異常をきたしたり、修復障害をきたすという可能性が示唆された。そこで、現在ではさらにras遺伝子群についてもMASA(mutant allele specific amplification)を用いて詳細に検討を行っている。
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