本研究の目的は、reverse transcription-polymerase chain reaction(RT-PCR)法を用いて、口腔扁平上皮癌(SCC)細胞には発現するが、正常リンパ節には発現しないタンパクのmRNAを高感度で検出することにより、所属リンパ節微小転移をより的確に診断する方法を開発することである。平成8年度においては、対象とするタンパクの選択、RNAの抽出法、選択したタンパクに対応するmRNAのcDNAをPCR法で増幅させるためのprimerの選択、anneal温度および時間の決定等の諸条件を検討し、頚部郭清術の際に切除されたリンパ節を用いて、診断システムの運用について検討した。すなわち、SCC細胞には発現し、正常リンパ節には発現しないタンパクとして、cytokeratin 19(CK-19)を選択し、組織標本からのtotal RNAの抽出には、guanidium-thiocyanate-solution法を用いた。抽出したtotal RNAをoligo(dT)primerおよび逆転写酵素等を用いて逆転写し一本鎖cDNAを作製し、この一本鎖cDNAをsense primerとantisense primerならびにTaq DNA polymerase等を用いて増幅し、増幅して得られたDNAをagarose gelにロードして電気泳動し、標本中のDK-19mRNAの存在の有無を検討した。平成8年から平成9年にかけて、6症例のSCC患者より、頚部郭清術の際に切除された、肉眼的に転移陰性と思われた40個のリンパ節のそれぞれの1/2について、病理組織学的検査を行い、残りの1/2についてRT-PCR法を用いて、組織内のCK-19mRNAの存在について検討した。その結果、1個のリンパ節については、病理組織学的に転移陽性であり、CK-19mRNAも陽性であった。しかし、残りの39個のリンパ節においては、いづれも病理組織学的に転移陰性であったが、そのうちの4個において、CK-19mRNAの存在が認められ、SCCのそれらのリンパ節への転移が強く疑われた。以上より、本法は、SCCの所属リンパ節微小転移をより的確に診断する上で極めて有用であると思われた。
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