研究概要 |
本年度は、現在のところ頭頸部癌に対して最も有用であるとされるフルオロウラシル・シスプラチン併用術前化学療法(以下FC療法)1コースを施行した口腔扁平上皮癌新鮮例25症例を対象とした。FC療法施行前の腫瘍細胞質におけるヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HS-GAG)の発現と手術切除標本におけるFC療法の組織学的効果との関連を検討した。なお、以前に行った報告者らの研究により、腫瘍細胞質におけるHS-GAGの発現と所属リンパ節転移との間には強い関連を認め、HS-GAG強陽性発現例は、弱陽性症例および陰性症例に比べて有意に転移能が高く、高悪性度群に属する可能性が示唆されている。組織学的に有効であるとされる大星・下里分類Grade IV、IIIおよびIIb症例は、HS-GAG強陽性発現例では54.5%(6/11)、HS-GAG弱陽性発現例では25.0%(3/12)、HS-GAG陰性例では100%(2/2)であり、各群間で有効率に有意差を認めなかった。ところで、前年度に行った、シスプラチンあるいはカルボプラチンを主体とし、ドキソルビシン、ピラルビシン、ペプロマイシンのいずれかを組み合わせた2剤もしくは3剤併用療法(以下APP or TPP療法)施行例を対象とした研究では、HS-GAG弱陽性症例は強陽性および陰性症例に比べて有意に有効症例が多いことが示されていた。これを本年度の結果とあわせて考察すると、組織学的有効率においては、APP or TPP療法群の31.9%(15/47)に比較して、FC療法群では44%(11/25)であり、有意な向上を認めないものの、高悪性度例と考えられるHS-GAG強陽性発現例に対する有効率は、FC療法群で有意に(p=0.0343)高く、見かけ上の組織学的有効率は向上しなかったものの、転移能が強い高悪性度群に対する有用性においては,FC療法はAPP or TPP療法に比較して上まわっていた。以上から、口腔扁平上皮癌におけるHS-GAG発現様式は、術前化学療法の効果を推測する上で有用な指標になりうるものと推察された。
|