口腔扁平上皮癌(SCC)における基底膜構成成分のひとつヘパラン硫酸グリコサミノグリカン(HS-GAG)の発現様式が、癌化学療法に対する感受性の指標となるかどうかについて検討を行った。 平成8年度は、シスプラチンあるいはカルボプラチンを主体とし、これにドキソルビシン、ピラルビシン、ペプロマイシンのいずれかを組み合わせた多剤併用術前化学療法(APP or TPP療法)1コースを施行したSCC新鮮例47症例を対象とし、治療前の腫瘍細胞質におけるHS-GAGの発現と病理組織学的効果の関連を検討した。組織学的に有効であるとされる大星・下里分類GradeIV、IIIおよびIIbの有効例は、HS-GAG強陽性発現例では13.3%(2/15)、HS-GAG弱陽性発現例では46.2%(13/28)、HS-GAG陰性例では0%(0/4)であり、弱陽性症例は強陽性および陰性症例に比べて有意に有効例が多いことが示された。 平成9年度は、現在のところ頭頸部癌に対して最も有用であるとされるフルオロウラシル・シスプラチン併用術前化学療法(以下FC療法)1コースを施行した口腔扁平上皮癌新鮮例25症例を対象とし、本研究を継続した。組織学的有効例はHS-GAG強陽性例では54.5%(6/11)、弱陽性例では25%(3/12)、陰性例では100%(2/2)であり、各群間で有効率に有意差を認めなかった。 組織学的有効率においては、APP or TPP療法群の31.9%(15/47)に比較して、FC療法群では44%(11/25)であり、有意な向上を認めないものの、高悪性度例と考えられるHS-GAG強陽性発現例に対する有効率は、FC療法群で有意に(p=0.343)高く、見かけ上の組織学的有効率は向上しなかったものの、転移能が強い高悪性度群に対する有用性においては、FC療法はAPP or TPP療法に比較して上まわっていた。以上から、口腔扁平上皮癌におけるHS-GAG発現様式は、術前化学療法の効果を推測する上で有用な指標になりうるものと推察された。
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