昨年度、抹消血液中に存在する癌細胞の検出を目的に、抹消血からは検出されない上皮細胞マーカーとしてCytokeratin 20(CK20)mRNAの発現をRT-PCR法により検索を行う実験系を確立した。口腔癌患者抹消血よりCK20mRNAの検出を試みたところ、12例中11例よりCK20mRNAが増幅された。しかしながら、抹消血中から検出されるCK20 mRNAと癌の転移能に明らかな関連が無く、口腔癌は発生の極めて初期に脈管内浸潤を果たしていると考えられる。昨年度の検索でCK20 mRNAが検出された口腔癌患者で、一次治療が終了し癌の再発が認められない症例において、同様の方法を用いてCK20 mRNAの検索を行ったところ、全ての症例において血中からCK20 mRNAは検出されなかった。このことは、抹消血中から検出されるCK20 mRNAが口腔癌の再発をスクリーニングするマーカーになりうることを意味している。現在症例数を増やしこの診断系の正確さを検定すると同時に、口腔扁平上皮癌患者の浸潤転移能から見た予後推定を行っている。 また最近、我々は増殖抑制遺伝子TSC-22をクローニングした。そこで、この遺伝子の癌細胞の浸潤転移に及ぼす影響をヌードマウスモデルを用いて検索した。その結果、TSC-22 遺伝子を導入した腺扁平上皮癌細胞は親株細胞と比較して著明な表現形質の変化が認められなかったが、TSC-22 遺伝子のアンチセンスを過剰発現させた細胞では明らかな腫瘍増殖能の促進が認められた。しかし、導入された遺伝子の明らかな浸潤・転移能への関与は認められなかった。また、頭頸部に発生した転移癌と非転移癌におけるTSC-22 mRNAの発現に明らかな差は認められなかった。
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