表皮細胞増殖因子(KGF)は線維芽細胞から産生され、上皮細胞のみを標的としてその増殖、分裂を促進する増殖因子である。近年、KGFは皮膚においてその受溶体とともに創傷治癒に深く関与していることが明らかとなってきた。しかし口腔粘膜上皮におけるKGFの役割は明らかにされていない。そこで本研究では、手術時に採取した口腔粘膜組織片より得られたケラチノサイトの細胞増殖におけるKGFの影響をMTT法にて検討した。その結果、細胞増殖はKGF処理にて有意に促進した。さらにrasor bladeを用いて培養細胞の一部を培養皿表面より除去し、その断端を観察した結果、KGFによってケラチノサイトの走化性も促進することも明らかとなった(migration assay)。これらの結果は、皮膚と同様に口腔粘膜においてもKGFが創傷治癒に関与している可能性を示唆するものである。また初代培養にて得られた線維芽細胞におけるKGFの発現を抗KGF単クローン抗体を用いた間接蛍光抗体法にて検索したが陽性シグナルは検出できなかった。さらにDigoxigenine標識ヒトKGFアンチセンスオリゴヌクレオチドプローブを用いたinsituハイブリダイゼーションによる解析でも正常粘膜組織においては、明らかな陽性シグナルは検出されなかった。 一方、近年ある種の疾患の病因とKGFあるいはその受容体との関連性が示唆されている。そこで嚢胞性病変におけるKGFの発現を免疫組織学的に検討した。その結果、歯原性角化嚢胞の嚢胞壁に、KGFの存在を示唆する陽性のシグナルが検出された。歯原性角化嚢胞はその嚢胞上皮の増殖能が高く、再発しやすいといわれており、本研究の結果はこの疾患の特徴あるいは病因にKGFが関与していることを示唆するものである。
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