当大学付属病院口腔外科外来へ抜歯目的で受診した患者を対象とし、各対象者からinformed consentを受けた。術前に高血圧などの病歴聴取、暗算負荷試験(暗算負荷は交感神経を刺激する方法)、安静時12誘導心電図測定、状態不安評価(STAI)を行った。歯科医が抜歯の難易度、局麻の種類と量、手術時間を記録した。自動血圧計と24時間携帯型心電図計を用いて、安静時、治療前、局麻前、局麻後・抜歯前、抜歯中、抜歯後の血圧と心拍数の測定と心拍数R-R変動のスペクトル分析から交感・福交感神経系の活動度を記録した。歯科診療台での麻酔前血圧と脈拍は安静時に比しすでに有意に上昇した。この血圧上昇は暗算負荷での血圧上昇と正に相関した。局麻による血圧上昇は軽微な一過性の収縮期血圧上昇だけであった。抜歯開始13分後に最大血圧上昇を認めた。このときの血圧増加は安静時に比し+24mmHg/+13mmHgであった。この血圧増加が大である群は小である群に比し局麻使用量が多く、手術難易度が高く、手術時間が長かった。この抜歯中昇圧度は年齢、性、高血圧家族歴、不安度、安静時血圧、安静時心電図、暗算負荷試験での昇圧とは相関しなかった。一方、心拍数のスペクトル分析では抜歯中の高周波成分%HFが治療前の20.4%から30.1%と有意に増加し、昇圧と心拍数増加を抑制するために代償的に副交感神経が活性化している事が分かった。歯科治療中の低血圧にこの副交感神経系の過緊張が関与している可能性が示唆された。
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