研究概要 |
我々は口腔粘膜における癌の発生、進行及びその予後とアポトーシスとの関係を解明するためにFas抗原に注目して研究を開始した。研究をすすめる上で特異的な抗Fas抗体が必要であると考え、我々はまず、Fas抗原の細胞外領域に担当する11個のアミノ酸配列に対するオリゴペプチドを合成し、家兔に免疫して非常に抗体価の高い抗ペプチド抗体を得た。この抗体を用いて我々は細胞にアポトーシスを誘導するFas抗原が正常口腔粘膜の基底細胞及び有棘細胞に局在すること、その分子量が35kDaであることを免疫組織化学手法及び免疫ブロッティング法を用いて証明した。この分子量はFas遺伝子の塩基配列より類推される分子量とよく一致する(Yoshioka et al,1996)。我々はさらにFas抗原が口腔扁兵上皮癌の分化度に応じてその発現量が異なること、口腔粘膜関連各種疾患において特異的な発現様式を呈する事等を発表した(Murakami et al,1997)。我々はさらに、Fas抗原の発現と化学療法後の抗腫瘍効果が関連することを見いだした。この成果の一部はすでに印刷公表され(村木等、1997)他の一部は現在印刷中である(Muraki et al.,in press)。我々はヒト口腔粘膜と培養口腔癌細胞よりmRNAを採取してRT-PCR法にてFas遺伝子を増幅した。このPCR産物の塩基配列はすでに公表されているFas遺伝子の配列と完全に一致した(Yoshioka-Seta et al,in preparation)。このことは口腔粘膜にFas遺伝子が存在し、その発現の異常は口腔癌の発生に関与しその発現量を知ることは化学療法語の予後を予想することを可能にする。以上の結果より、我々は口腔粘膜細胞と培養癌細胞にアポトーシスを誘導し、その機構を知ること、アポトーシス関連遺伝子、癌原遺伝子、癌抑制遺伝子を検出するすることは、癌の確定診断、癌発生の予測、残存癌細胞や転位細胞の検出、疾患の予後と転位性の予測を行う上で臨床上特に重要であると考える。
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