研究概要 |
対象は生検より得られた舌扁平上皮癌5例で、対照として正常口腔粘膜3例を用いた。方法は上記生検材料より得られた新鮮凍結組織からDNAの抽出をおこない、P53癌抑制遺伝子のエクソン4〜9までの領域においてPCR-SSCPをおこない、変異の有無について検討をおこなった。その結果、扁平上皮癌では5例中2例(40.0%)に、P53癌抑制遺伝子の異常が認められた。臨床進行度(UICC,1987)との関連についてみると、TNおよびStage分類との間には相関は認められなかった。組織学的悪性度(Anneroth,1987およびWHO)との関連についても検討を加えたところ、低分化型、核異型の強いもの、さらに浸潤様式の高度の腫瘍ほど変異頻度が増加する傾向であった。次に、P53癌抑制遺伝子の変異を認めた2例についてdirect-Sequencingによって塩基配列を決定したところ、変異のタイプはすべて点突然変異であった。正常組織においてはいずれもP53癌抑制遺伝子の変異は認められなかった。以上よりP53癌抑制遺伝子は口腔扁平上皮癌においても、その発生および発育に関与していることが示唆され、また組織学的悪性度や予後の指標としても有用であることが窺われた。われわれはRAS,c-MYC等の癌核内遺伝子についても現在、同様の方法にて検討をおこなっている。さらに、実験的口腔癌における多段階発癌のメカニズムを解明するために、DNBA誘発ハムスター頬嚢粘膜扁平上皮癌の発癌過程におけるP53癌抑制遺伝子やRAS,c-MYC等の核内癌遺伝子など複数の遺伝子異常を経時的に検討する目的で、現在予備実験中である。
|