対象は、Spraque-Dawley系雌雄ラット、5週齢70匹を用いた。発癌剤は、0.001%濃度の4NQOを用い、飲料水として自由に飲水させた。4NQO投与群のラットは経時的に、舌に白斑を示し、その後軽度に肥厚し、その中に舌背を中心に、白斑性病変、乳頭状増殖、および漬瘍性病変が出現した。これらの病態を示すラットを屠殺後、凍結させ、各病変部のDNAの抽出を行い、P53、Ha-ras、Ki-ras遺伝子の異常について、PCR-SSCP法により解析した。その結果、正常ラットではP53、Ha-ras、Ki-rasとも遺伝子異常を示さなかった。これに対して、白斑病変や紅班病変ではP53、Ki-rasには異常が認められなかったものの、Ha-rasに異常を認めた。一方、扁平上皮癌ではKi-rasに遺伝子異常は認められなかったのに対し、P53、Hi-rasの2つに変異を認めた。これら変異を認めた症例において、腫瘍の大きさ、ならびに組織学的悪性度(1987年Anneroth)との関連について検討を加えたところ、腫瘍径との間には相関は認められなかった。核異型度の程度ならびに浸潤様式とは関連がみられ、程度が進むにつれてP53の変異頻度が増加する結果となった。本実験系の発癌過程における以上の結果より、正常組織が癌に至る悪性化の過程で、P53、Ha-ras遺伝子の変異が重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
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