歯科矯正装置によってもたらされる過度の力や歯の揺さぶりが、どのような機序で歯根吸収を起こすかは明確にされておらず、細胞レベルの研究は少ない。 ラットの長管骨骨髄細胞、線維芽細胞、マウス骨芽細胞株MC3T3-E1細胞、およびヒト歯根膜細胞を軟性膜培養皿上に培養し、伸展刺激を加えこれらの培養上清の骨吸収に与える影響を調べた結果、それぞれの細胞間に有意な差を認めることはできなかった。また、副甲状腺ホルモンで骨吸収活性を促進したラット破骨細胞におけるH^+-ATPaseおよびcarbonicanhydraseIIをそれぞれbafilomycinA_1およびacetazolamideで阻害した場合ではprocathepsin Lの分泌に関して相違がみられ、H^+の産生がprocathepsin Lの分泌を調節している可能性が示唆された。また、合成したペプチジルアルデヒドがinvitroおよびinvivoで骨吸収を抑制し、この場合、特に骨コラーゲン合成を抑制していることが分かった。さらに、ニワトリの頭蓋冠や骨細胞から分離された18.5kDaの蛋白は骨吸収を抑制するが、その機序のひとつとして破骨細胞のポドゾームの消失を促進していることがマイクロインジェクション法を用ていて分かった。 破歯細胞による歯根吸収を抑制する上で、以上のことは重要であり研究の進展により歯科矯正治療における歯根吸収を人為的に制御できる可能性があるものと考えられる。 なお、本研究は本来、破歯細胞を研究対象にするものであったが、技術上の困難さから性質の類似する破骨細胞をその対象とした。
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